何を目的に始める? 中小企業の働き方改革
2017年夏号 2017.07.05
本音で考える働き方改革の中身―中小企業の現場目線
大きくクローズアップされている「働き方改革」。本誌の「働き方改革」特集(2016年秋号)は大きな反響を呼んだ。
労働時間短縮や在宅勤務制度を打ち出す大企業が次々出てくる一方、中小企業からは「様子見」の反応も多くある。
そもそも働き方改革は「言われたからやる」のではなく、経営上のメリットがあるから推奨されているはず。
多くの現場を抱える中小企業が現実的な目線で見たとき、「働き方改革」の流れをどう咀嚼していけばよいだろうか。
大企業を想定した「働き方改革像」にとらわれなくてよい
「働き方改革」とは、簡単に言えば、社内で遅くまで残業を重ねる働き方から脱して、仕事の効率化=生産性を意識し、労働時間を減らしても今まで以上の成果を上げたり、オフィスという場所や規程の労働時間に縛られず、仕事の仕方に柔軟性を持たせようというものだ。働く人が、育児や介護などを迎えても仕事を続けやすい会社であることも期待されている。
ICT(情報通信技術)の進展により実現しやすくなった。
他人事か、それとも是非取り組みたい重要事項か、企業ごとに捉え方には大きな差があることだろう。
現実には、普段からパソコンに向かったり、会議→意思決定する管理職や企画の仕事は比較的導入しやすい。一方で、たとえば対面の人的サービスや、商業ビルの営業時間が決まっており店の営業時間を減らせない場合、工場での製造業務など、「その時・その場にいることが大切」な仕事が多数ある。「在宅勤務なんて、中小企業の現場を知らない人の机上の空論だ」という主張はこのような現実からくるのかもしれない。
取引先の大企業が定時に帰宅するために、前日、急いで仕事を仕上げるよう頼まれて残業した、という笑えない話も聞く。
これを拒否して定時に帰宅できる会社はごく少数だろう。企業が存続するためには、仕事を着実にこなし顧客に喜ばれることが第一。画一的な「働き方改革」の見た目に無理に合わせる必要はない。
では中小企業にとって「働き方改革」を意識すべき理由とはなにか。
一つは、労働時間の短縮=同じ成果をより短い時間で出せれば、利益アップにつなげられるから。
もう一つは、その会社なりの働きやすい環境づくりは、人材の定着・採用につなげられるから。
①取引先のスピード要求に応える
②コストを削減する
③従業員の雇用を継続させる
④人材を採用しやすくする
などの効果に「NO」という企業はないはずだ。
「働き方改革」そのものを目的とせず、勤務時間の短縮や柔軟な働き方ができる体制づくりを通じて利益向上や従業員に選ばれる会社づくりができるととらえれば、自社で取り組めるポイントが見出しやすいのではないだろうか。
柔軟な働き方がうたわれだした背景にあるのが、インターネットやタブレット・スマートフォンの普及、「持たずに使う」クラウドサービスの進展である。インターネットにつながる環境があれば、場所や時間にとらわれない情報活用をそれほどお金をかけずに実現できるからだ。今困っていること、「外出先でこれがこなせるだけで効率があがるんだが…」ということから部分的に活用してみたい。
働きやすい職場は、従業員に喜ばれる会社
たとえば、在宅勤務まではしなくても、外出先や自宅でスマホやタブレットを用いてちょっとした仕事をこなせるようにするだけでも時間の使い方が変わる。顧客からの急な依頼にスピード対応すれば信頼が高まるし、もう一度会社に戻る時間が不要になり効率がアップする。直行直帰により交通費や移動時間の削減も見込める。
これらはクラウドサービスを活用して、社外から安全にメールや社内文書にアクセスできる仕組みを作ることで実現する。
ある飲食業では、スタッフがスマホでシフト情報を共有したところ、急病で欠席者が出て際に自主的に代わる人が名乗り出てくれるようになり、連絡業務がスピーディになった。これまでなら、店長が出勤してくれそうな人にあわてて電話をかけまくっていただろう。やむを得ない事情で休んでもお互い都合をつけてやりくりできるなら、子育て中の人も勤めやすくなる。これも「働き方改革」なのだ。
そして、仕事を柔軟にこなせる会社かどうかは、若者が入社を決めるポイントの一つになりつつある。スマートフォンで情報を得、SNSなどによるリアルタイムコミュニケーションが当たり前となった若年世代は、旧態依然とした仕事のやり方を避けやすい傾向がある。採用に苦労していたが、eラーニングで、職場でも自宅でも好きなときに業務を学べる仕組みをつくり、応募者が増えた企業もある。
「上司に聞かないと書類1枚、どこにあるかわからない」状態を脱し、情報を整理・一元管理し、デジタル化していつでもどこでも共有できる職場は、業務の効率の高さに加え、仕事を覚えやすく間違えにくい職場、コミュニケーションしやすい職場となり、従業員からの評価が高いのだ。
働きやすさを意識すると効率があがる。効率を高めようとすると働きやすい。
多彩なクラウドサービスで効率的な職場づくり
実現のために利用するクラウドサービスは種類が増え充実してきた。
以前は「このやり方が当たり前」だったことが、ITツールを使うと簡単にできるようになっていたりする。気づかないまま仕事の仕方を変えないでいると、いつの間にか時代に取り残され、高コストな会社になりかねない。
例えば、メールのフォーマルさを飛び越えて、テーマごとに関係者が文字で意見を出し合えるチャット。
「メールを一つひとつ開く非効率さ」「ビジネスのやり取りを追いにくい」との理由で、チャットの利便性に注目が集まりつつある。テーマごとに複数人が参加できるので、意見を出し合うにも便利だ。
また、外出先でもスケジュールや文書を活用できるOffice系クラウドサービス、タイムカードの打刻データを自動集計して給与計算を効率化する勤怠・給与系のクラウドサービス、社内でスキャンした文書データをクラウドに自動保存し出張先で確認できる複合機など、多様な分野に広がる。
自社では、何をすると業務の効率があがり、働きやすくなるだろうか。「働きやすさにつながるIT環境整備」を、クラウドサービスを使ってデザインし、できるところから始めたい。
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