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顧客別の納品実績を探しやすくしたい! 「売上目標を追わない会社」のシステム活用

職場の様子

2015年 秋号 2016.01.04


取り扱うアイテムが1営業所あたり毎日20〜30個増えていく──大阪府大阪市の塗料卸売業、高砂商店のビジネスは、商品数の多さが特徴の一つだ。

工業用塗料を扱う同社は、製造メーカーや塗装専門会社が顧客である。しかし、塗料メーカーの標準品をそのまま顧客に納品することは少ないという。

「仕上げに使う塗料は、イメージやコーポレートカラーなどに応じた独自の色が求められるので、塗料を混ぜ合わせて『調色』(チョウショク)してから納品するのが一般的です」

取締役営業本部長の高岡佑輔氏は理由をこのように説明する。組み合わせによって種類は無限。同じ商品に使用する塗料でも、顧客の製造ラインによって微妙に色が変わることもあり、きめ細かく対応する力が求められる。

こうしたノウハウや現場にすぐに駆けつけられるスピード対応が評価され、取引先と長期にわたる信頼関係を築いている。新規取引先も顧客からの紹介が多いという。

社名 株式会社 高砂商店
所在地 大阪市北区中津3-35-13
設立 1951年
代表者 代表取締役社長 高岡護
事業内容 塗料、顔料の販売、塗装工事、防水工事等
従業員数 65名

全員でデータにアクセスし納品実績を見たい

これまでオフコンを活用して仕入れと売上のデータ入力を行ってきたが、2014年、受発注から統合的に管理するシステムを新たに構築した。

「端末が1営業所1台しかないのでネットワーク化して全員が使えるようにしたいこと、過去のデータを利用したいこと」が理由であった。

以前のシステムでは1年ごとに前年のデータを磁気テープにバックアップしていた。過去の納品実績を確認するには、得意先元帳をめくってたどるしかなかったという。取扱い商品が多数であるゆえ、検索性を高めて顧客への対応スピードを上げ、新入社員でも状況を把握しやすくする環境づくりが急務だった。

オフコンのベンダーから提案を受けたところ、パッケージをカスタマイズする内容で金額も高額だった。ベンダーと仕様を詰めたが、高岡本部長は「やりたいことを実現できるだろうか。当社には合わないのでは」と感じたという。

そこで高岡護社長が大阪商工会議所の窓口相談を訪問。経営の視点でシステム化を支援するITコーディネータの存在を知り、ヒューリットMFの川野太氏ら2名の専門家にサポートを依頼した。

専門家とITベンダーがシステム活用を支える

川野氏は各営業所にも足を運んで現場の要望をヒヤリングした。「『こうしたらもっと良くなる』とのご意見もいただきながら、システム提案依頼書(RFP)の発行に至りました。新しいITベンダーを選定する際は一緒に企業訪問し、アドバイスをいただきました」と高岡本部長は振り返る。

株式会社アッドワン 第一システム開発部 髙塚和也氏 (中小企業診断士) 高砂商店の業務の流れを理解して、ユーザー並走型のシステム構築・運用を行っている。

株式会社アッドワン
第一システム開発部
髙塚和也氏
(中小企業診断士)
高砂商店の業務の流れを理解して、ユーザー並走型のシステム構築・運用を行っている。

ITベンダーに選ばれたのは、大阪市のアッドワンであった。サーバーを同社が運営するクラウド型のシステムとし、各営業所からアクセスしやすくした。第一システム開発部の髙塚和也氏は、「紙を使ったチェックを要所で残すことを希望され、受注票など独自の使いやすさも追求されています。その主旨を理解し、試行錯誤しながらシステム化に取り組みました」と話す。

髙塚氏も各営業所を訪問して現場を知る一方、増えていく商品を探しやすくするために商品コードの体系づくりなどもサポートした。

システム導入後は、「あの時の色」と顧客から言われれば、納品履歴を検索でき、また原価管理もしやすくなった。数年分のデータが蓄積されれば、より便利になるはずだ。

高砂商店のシステム活用

「ものづくり補助金」に採択 タブレットの活用も視野に

取締役営業本部長 高岡佑輔氏

取締役営業本部長 高岡佑輔氏

高岡本部長はその一方で、「あまりデータ集めはしたくない。社内では売上目標も立てないのです」と意外な言葉を口にする。売上の推移を把握し指標にはするが、重視するのは「いかに顧客のためになるか」である。売上目標達成のために無理に売ることはしない。

「日本で一番対応の良い塗料販売店になる」とのスローガンを掲げる同社は、システムも「顧客との関係性を見える化」するために活用しているといえる。

2015年の8月には、「ものづくり・商業・サービス革新補助金」に採択され、板金塗装一括受注体制づくりを目指す。その際は現場でタブレットPCを用いてシステムを利用する予定とのことだ。

サポータ紹介

一般社団法人 ヒューリットMF (経営革新等支援機関)

一般社団法人 ヒューリットMF
(経営革新等支援機関)
理事 川野太氏

ITと経営の橋渡し、人材育成ができる専門家として、中小企業の経営革新を支援している。

川野氏は、コンピュータを効率的に活用する方法や手段を指す「ユースウェア」の視点を大切にし、小規模企業の現状に即した現場参加型の支援を心がけている。金融機関と連携した企業支援を進めるほか、関西地区の商工会議所とも交流がある。

高砂商店の支援では、同社が大切にするポイントを理解して、システム提案依頼書を作成。高岡本部長は、「気づかなかった視点を提供していただきました」と話している。2015年の「ものづくり補助金」申請においても、ヒューリットMFとして引き続きサポートを行った。