東京銀器の伝統を守る! 強みを活かすWeb活用<IT活用事例>
販売促進・問い合わせ増・PR製造業(伝統産業)20人以下POSレジ・注文受付Web&SNS
2014年 夏号 2016.05.02
代表取締役 上川一男氏(左) 取締役 上川善嗣氏(右)
「東京銀器」の伝統を一家で守る!
未来の顧客を開拓する体験教室がヒット
戦略的Webサイト活用
東京都台東区・伝統工芸品製造販売 日伸貴金属の場合
東京銀器──まぐるしくビジネスが動く首都・東京は、実は銀製品の産地。経済産業大臣が指定する伝統的工芸品に認定されており、江戸末期の初代平田禅之丞氏より代々職人の技が伝承されてきた。
現在、約70人の銀器職人がいるが、彼らの弟子はごくわずか。主に百貨店で販売されている和茶器やグラス、花瓶などの高級銀器は、リーマンショックを機に販売量が減少しているからだ。
このような状況下、三男一女が父・上川一男社長(雅号・上川宗照氏)のもと伝統技術を受け継ぎ育てている「伝統工芸一家」が、東京都台東区に工房を構える日伸貴金属である。
上川社長はビジネス環境を次のように語る。
「従来は百貨店への流通を担う“御店さん”から依頼を受けて製作していましたが、仕事がこない。どうしたらいいか。しかし店舗を出せば相当なお金がかかります。インターネット活用の取り組みをせざるを得なかったのです」
会社名 | 有限会社日伸貴金属 |
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工房の住所 | 東京都台東区三筋1-3-13 伊藤ビル1階 |
事業内容 | 伝統工芸「東京銀器」製造販売 |
設立 | 1964年 |
従業員数 | 5名 |
URL | http://www.nisshin-kikinzoku.com/ |
直接顧客に向き合うにはどうすればよいか
そこで、6年ほど前、長男の上川善嗣取締役(雅号・上川宗伯氏)が東京都中小企業振興公社の「若手商人研究会」に参加。伝統産業のものづくりを多くの人に知ってもらうための方法やIT活用を勉強した。
「時代の要請もあり、自分たちの技術や顔をしっかり伝えて選んでいただくことが必要ではないか。『東京銀器を知っているよ』『これはお兄さんが作ったんだよね』と言っていただけるようにしたいと思いました」
これまでの流通形態ではできなかった「顧客と顔が見える関係」を構築するにはどうしたらよいのだろうか。
同社は、研究会のアドバイザーであったITコーディネータの野中栄一氏に相談。同氏のサポートを得てホームページのリニューアルに向けて動きだした。
時間を割いて検討したのは、日伸貴金属の強みをどう打ち出していくか。
「ヒヤリングの中で東京銀器という伝統工芸ブランド、品質の高さ、伝統工芸一家であること、良い写真素材があること、銀器は高級感がある一方親しみもある、など特徴が見えてきました」と野中氏は説明する。
また、高価な銀器はネット上で契約を完結させるのは難しいため、Webサイトをきっかけに同社に来てもらい、直接説明してオーダーを受け付けることを想定した。
Webページの制作やSEO対策も野中氏の会社で受け持つこととなり、2009年にリニューアルオープン。その後現在まで4、5回の改訂を行っている。
日伸貴金属のホームページは黒を基調にしたシックな色彩に銀器の写真が映えている。伝統工芸一家の紹介ページでは、4人の匠がそれぞれの個性を放つ。
ホームページリニューアル後の効果はじわじわと現れ、同社への来訪者が増えてきた。中国やシンガポールなど海外からも訪れ、その場で100万円の茶器を買い求めた顧客もいるという。
ネットに紹介した体験学習が口コミで
さらに「想定外」の効果も見られた。銀器づくりを体験できる「東京銀器 制作体験教室」が人気となり、口コミで修学旅行生が多数訪れるようになったのだ。
「次の世代を担う子どもたちに伝統技術を体験してもらえるのは価値があります」と上川取締役は顔をほころばせる。「来てもらうためのホームページ」という狙いが予想以上の動きを見せたのである。
同社の場合、支払いは前払い。クレジットカードを利用したい顧客もいるので、野中氏のアドバイスで「楽天スマートペイ」を導入しスマートフォンによるクレジットカード決済にも対応した。しかし、高額品の前払いに顧客は不安を抱かないのか。
「うちは11代目。ご先祖様がいっぱいいますから顔に泥を塗るような仕事はしません。それだけの伝統を背負っているのです」
上川社長は澄んだ眼でこう言い切る。この気概こそが同社の信用そのものである。
今後は少額商品のネット販売にもチャレンジする予定という日伸貴金属。東京ブランドを世界に発信してほしい。
サポーター紹介
ITコーディネータ
株式会社ナーツ
代表取締役 野中栄一氏
Web活用戦略・ネットを活用したマーケティングに詳しいITコーディネータ。セミナーやコンサルティング現場では「難しいIT活用をわかりやすく解説する」との評判も高い。
Webサイト活用支援では、経営面から支援できる強みを活かして、構築目的や顧客像を明確にし、目標(問い合せの数など)を定めてから具体的な構築に入る。「何社ものサイトにかかわっているので勘所がわかりますから、自社だけでは気づきにくい部分をアドバイスさせていただくこともあります」(野中氏)という。
また、自身の会社でWebサイト制作や運用も行っている。
日伸貴金属の支援においては、ヒヤリングや質問を重ねながら同社が方向性を定める支援を行った。上川取締役は「うちの事情をとてもよく理解してくださったので、“ツーと言えばカー”の状態で進めることができました」と話している。