製造業は「良いものを造る」だけでは足りない
2016年 春号 2016.06.29
富山県 組子製造
株式会社タニハタ 代表取締役 谷端 信夫氏
(著書「世界に響け 職人の心意気」リックテレコム刊)
ものづくりが見直されている。
昔は3Kのイメージが強く、若い人に敬遠されがちな業種であったが、今ではドラマで高視聴率を獲得したり、多くの方が関心を示されるようになった。
日本のものづくりの象徴は「技術力」と思われているようだが、ドラマのように品質の高いものづくりを続けることで経営は本当に安定するのだろうか?
2015年、世界的に有名なホテルに組子欄間を約400枚納入させていただいた。中には一泊200万円する部屋に使用されるなど、かなり高度な技術を必要とする組子もあった。私たちも、「この技術力があるから今回の仕事を受注することができた」と思っていた。
この部屋の様子をNHK富山に取り上げていただいた際、空間デザイナーの方へのインタビューを聞いて目から鱗が落ちた。
「組子を製作する工場は全国にあるのに、なぜタニハタに製作を依頼されたのですか」
デザイナーの方はこう言われた。
「日本中に組子欄間を製作する工場はありますが、我々の要望を聞いて期限までにまとめ、デザイン提案してくれる会社はタニハタさんだけなのです」
当社は「製造業」である。
57年かけて積み上げてきた「製造」「技術力」こそが一番の強みと思っていたのだが、お客様は技術以外のところに強みを見出していたのだ。これには正直、驚いた。
内装の打ち合わせには約五カ月かかったが、製作は約三カ月だった。作っている期間より打ち合わせ期間のほうが長い。製造の前の五カ月間にも「価値」があったのだ。
バブル崩壊後、当社は何度も倒産しかけて、その都度いろいろな新規分野に挑戦し、そしてまた撤退を繰り返した。
「本当に私のやってきたことは正しかったのか」と自問することは多かったが、
- 設計・デザイナーの方に鍛えられた「デザイン提案の力」
- ネット通販の個人客に鍛えられた「小売ノウハウ」
- 大手小売店に鍛えられた「時間内で量をこなすノウハウ」
など、その時々に「壁」にぶつかって得たものが、今、会社を支える土台になっていたのである。
「伝統的ものづくり」に別の「武器」を絡ませること。小回り、スピード感をもって動くことの価値を、教えていただいた。
「お客様の立場」で考える重要性を改めて感じた次第である。