製造と販売のタイミングを最適化する
2016年 春号 2016.07.12
橋本食品 株式会社
代表取締役社長 橋本和宏氏
製造と販売のタイミングを最適化!
データを見て考える習慣が根付きはじめた
ある店舗担当者から、昨日の売上実績と今日の目標値が書き込まれる。他の店舗からは連絡事項、そこに社長が改善につながるコメントを――。これは、北九州市に本社を構える食品加工販売業・橋本食品のチャットシステムの様子である。
同社は、福岡・山口・広島三県の17店舗にて食肉・惣菜を製造販売する。店舗は駅ビルやスーパーマーケットに入居しており、その場で手作りする惣菜が評判である。
会社名 | 橋本食品 株式会社 |
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所在地 | 福岡県北九州市門司区栄町9-23 |
設立 | 1961年(創業:1903年) |
従業員数 | 約40名(パート・アルバイト約150名) |
事業内容 | 食肉、惣菜・すしの販売 |
URL | http://www.hashimoto-foods.jp/ |
考えるにはデータが必要 店舗の情報を共有
2008年、橋本和宏社長が先代から経営を引き継いだ時、「堅実だがあまり儲からない」、さらに本部と店舗の連絡手段も紙やFAXなどアナログの状況だった。「研究者になるつもりだった」という頭脳派の橋本社長はサービス産業の経営について徹底的に学び、目を見張るスピードで改革を行った。
今では各店舗の数値が、文字ベースの会話ができるチャットシステムと連動し、大事な情報を瞬時に共有できるようになった。
橋本社長は、この取り組みを進めた理由を次のように説明する。
「店舗の動きを捕捉して生産性を上げるには、考える材料となるデータ、つまりITが欠かせません。例えば惣菜販売では、作り置きを減らし製造と販売のタイミングを合わせるために、時間ごとの製造、売上、人員数のデータを取りたかったのです」
3年前にスタートした基幹システム構築では、管理課課長の門村薫氏が推進役を担った。同社の管理部門・幹部社員は、橋本社長とともにセミナーや研修会に足を運び、知識を増やし進むべき方向性を共有している。
どんなデータが必要かの要件を整理し、使いやすさを求めてITベンダーと打ち合わせを重ねた。
特に重視したのは画面設計である。「今日のお仕事」「月末のお仕事」など、利用する場面に応じて記録やシミュレーションができるよう、門村氏自身が画面イメージのアイディアを出したという。
実際の運用では、例えば、昨日の売上を入力すると、目標対比での進捗率が出る。また、売上目標を入力すると、投下できる労働時間が表示され、顧客の動きに沿ったシフト計画をサポートする。
門村氏は「実際にITが動き出してはじめてわかる課題もあり、改良しながら運用していますが、現場と本社が二重に行っていた仕事を減らし、現場が見えるようになりました」と話している。
生産性が10%アップ 次はマーケティング視点で
同社はその他にも、販売現場の動きを検証するWebカメラ、動画によるeラーニングなど、矢継ぎ早にIT導入を進めている。
これらの結果、IT導入前と比べて人時生産性は10%アップした。
基幹システム開発の過程では、ITベンダーとのスムーズな連携を図るべく、ITコーディネータの荒添美穂氏に専門家として助言を受けた。チャットシステムの導入も、荒添氏が支援した企業を見学して決めたという。
橋本社長は今回の体験をきっかけに自らITコーディネータの資格を取得した。
スーパーマーケットなどの母店では、まだ、単品管理が進んでいない現状がある。「この資格とPOSレジにトライアルした経験を踏まえ、母店への提案も進めていきたい」(橋本社長)とのことだ。
今後は、本部主導でテンポよく開発してきた基幹システムを、各店舗が使いこなし、いかに現場の力に変えていくかの局面となる。
「社内の意識改革は進んでおり、データを見ながらマーケティングの視点で考える習慣が生まれてきました。サービス産業にIT活用は必須。生活者目線を持てる女性の力を積極的に活用し、100億円企業を目指します」
橋本社長は手ごたえと意気込みをこのように語った。
サポーター紹介
インテリジェントパーク
荒添美穂氏
(ITコーディネータ、システム監査技術者)
九州一円・山口県を中心に、中小企業の経営コンサルティングを展開。事業戦略・マーケティングの観点からWeb活用やITシステム導入を支援している。
セミナー講師や、中小機構九州をはじめとした支援機関での個別相談も担当。2015年は、日本商工会議所が全国の商工会議所と連携して実施した「企業のデータ活用セミナー」の講師を務め、統計分析に関する豊富な知識と中小企業の現状を踏まえ、データ活用のあり方をわかりやすく解説した。
地元・北九州市での支援実績は特に多く、橋本食品の橋本社長も「他の経営者からの評判」で荒添氏を知ったそうだ。
今回は、システム発注後のサポートだったが、「会社の意向をITベンダーに伝える翻訳の役割」(橋本社長)を担い、期限内のシステム完成を支えた。
また、橋本社長の適性を見抜いてITコーディネータの資格を薦め、資格取得の際には研修会のインストラクターを務めた。