iPadでバス内に自動観光ガイドサービス<IT活用事例>
付加価値アップ・商品開発運輸業21から100人タブレット・スマホ・アプリ動画・画像
2014年 冬号 2016.09.06
選ばれる貸切バス会社へ
iPadから位置連動の観光ガイド
ブリ、うどん、牛…。食の宝庫富山県氷見市は、漫画家・藤子不二雄Ⓐ氏の出身地でもある。町では「忍者ハットリ君」のからくり時計やモニュメントなど、あちこちで同氏の作品を楽しむことができる。
運が良ければハットリ君のタクシーにも──。このタクシーを所有しているのが、平和交通である。
タクシー事業で創業した平和交通は、人口の減少や自家用車の保有率アップにともない、貸切バス事業も展開。現在は売上の7割がバス事業である。旅行代理店などからの依頼で、北陸に到着した旅行客を立山アルペンルート、金沢、能登、長野などに観光輸送する。
三代目経営者となる山田真功氏は最近のビジネス事情を次のように説明する。
「新規参入が容易になり、10〜20年前に比べて貸切バスの代金は半分近くに下がっています。一方で人命を預かる仕事ですから、働く人々の労働環境も整備が必要です。このまま価格競争をしていてよいのだろうか。他社と違うことをしないと生き残れないのではないかと考え始めました」
会社名 | 平和交通株式会社 |
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所在地 | 富山県氷見市柳田2078-1 |
設立 | 1950年 |
従業員数 | 40名 |
事業内容 | 貸切バス・タクシー・旅行業 |
URL | http://www.heiwa-himi.jp/ |
バスの文化であるバスガイドを支援
価格以外に付加価値をつけることはできないか。山田社長はまず、60人乗りバスを購入し、大人数のツアー客に対応しやすくした。
さらに顧客満足を高めるにはバス内の観光ガイドの充実が有効だが、バスガイドの育成には時間も費用もかかる。また、観光ルートが広範囲になる傾向からガイド側の負荷も高まり、若い担い手が思うように集まらない現状があった。
「このままではバスガイドがいなくなるかもしれない。バスの文化をなくさないよう、ガイドを手助けできるシステムがほしい」
山田社長は5年ほど前からこうした問題意識を持っていた。そこへ、タブレット・スマートフォンの時代が到来。2013年、iPadの位置情報を活用した自動ガイドシステム「タビ子」を開発するに至った。
GPSで位置を探し バス内にコンテンツを表示
「タビ子」は、バスが既定の場所を通過すると、あらかじめ登録しておいた観光地の画像・映像・ガイド音声が、バスのモニター画面から自動で流れる仕組みだ。バスガイドのサポートになるうえ、自動ガイドなので運転手一人で運行しているバスでも観光ガイドサービスを提供できる。
コンテンツは同社の社員が手づくりし、音声は自動読み上げアプリを利用している。
「試験利用をしたところ、反応はまずまずというところです」と山田社長。
同システムの構築を支援したITコーディネータの菊地光氏は、開発の経緯を振り返る。
「山田社長に構想を伺ったのは5年前でしたが、この間にITの環境がガラッと変わってモバイルが身近になり、中小企業でも簡単に使えるようになりました。最適なタイミングでした」
菊地氏は要件を整理してモバイルアプリ開発が得意な県内ベンダー・高志インテック(現在)にシステムの見積りを依頼。バス内、社内の両方で利用でき、位置情報が取得できるGPSを持つ端末として、iPadを選んだ。
データはクラウド上に置き、当日の移動ルートに即したコンテンツをiPadにダウンロードする。運転手は運転開始前にiPadとモニターをつなぎ、「タビ子」のアプリを起動させればよい。
従業員自らが取り組める環境づくりを
山田社長は、コンテンツづくりやiPad利用を従業員が自ら興味を持って楽しく行えるよう、IT活用の自由な風土づくりを心がけているという。
「Facebookでは社内のグループを作り忌憚のない意見交換をしています。私に向けた厳しい意見も書き込まれますよ。良いものを創るには現場の意見を聞くのが大事ですから」と笑みを見せる。
iPadの利用に消極的な社員がいても、楽しく使いこなす人が出てくれば、浸透も早いはずだ。
現在はまだ、交通事情で違うルートを走った場合コンテンツが使えないといった課題はあるものの、平和交通は、観光コンテンツという独自の武器を持つことができた。
「この独自性で価格競争にのまれないビジネスを創っていきたい」
山田社長は本格稼働に意欲を見せる。
サポーター紹介
ITコーディネータ 菊池光氏
ひかりIT 代表
http://hikari-it.com/
ITコーディネータ富山 理事
富山県を中心に活動するITコーディネータ。ホームページを活用した販路開拓支援、モバイルやクラウドの活用支援に積極的に取り組んでいる。
以前から山田社長とは面識があったが、3年前の再訪問をきっかけに、支援依頼を受ける。
平和交通のアプリ開発支援に際しては、現状の業務プロセスを分析したうえで、アプリ開発後の活用シーンを描き、RFP(提案依頼書)を作成。
開発中は、進捗状況を随時チェックしながら、アプリの仕様や運用方法等について調整を図るなど橋渡し役を担い、完成後は平和交通社員への操作サポートなども行った。
山田社長は、「私自身はITに詳しい方だと思っていましたが、菊地さんはさらに豊富な情報をお持ちなので、助かりました。求めることとITを結びつけてもらいました」と評価する。モバイルアプリを開発できるベンダーの発掘と調整も、今後のITコーディネータの大切な仕事になるだろう。