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職員に負担をかけずリハビリ用教材を充実させる!<IT活用事例>

代表取締役 渡辺賢二氏(右) 言語聴覚士 松本真紀氏(左)

代表取締役 渡辺賢二氏(右) 
言語聴覚士 松本真紀氏(左)

2016年 夏号 2016.10.12


リハビリサービスの質で事業を軌道に乗せる
職員の働きやすさを高める教材のIT化

起業には1社ごとに背景がある。ミカタ(千葉県松戸市)の渡辺賢二社長は家族がきっかけだった。

「父が脳梗塞で倒れ失語症になりましたが、退院後にリハビリを受けるところがなかったのです。家族の勧めもあり、父や同じ障害を持つ方に向けた言語デイサービスの介護事業所を開業しました」

言語(主に失語症)に特化した介護事業所(介護保険適用)は全国でも珍しいという。リハビリは言語機能障害にかかわる医療従事者である言語聴覚士が担当する。

創業から約10年、千葉県内に3つの事業所を持ち、のべ6万人がサービスを受けるまでになった。デイサービス事業者が林立するなか、スタッフのリハビリ環境づくりによるリハビリ意欲の向上が評価を受けているのだ。

言語デイサービスミカタ

リハビリサービスの計画から実施までを精力的にこなす言語聴覚士の松本真紀氏は次のように説明する。

「失語症などの障害を持つ方は1対1のリハビリだけでは社会的に孤立しやすくなります。機能の回復はもちろんですが、日常生活で使えるコミュニケーションの力をつけるには、社会参加を伴うデイサービスでの言語訓練が有効なのです」

ミカタでは、1日の定員が25名(松戸の場合)。約5時間、全員または5名のグループで一緒に言語療法、学習療法、言語レクリエーションなどを行う。言葉を交わさなくても励まし合ったり共感し合いながら、言語機能を底上げしていくのだ。来訪時は下を向きがちだった方も表情がイキイキしてくるという。障害を持ってから6カ月が経過すると急激な回復は難しいといわれるが、ミカタでは高齢者であっても、標準失語検査にて回復が確認されている。

会社外観

会社名 有限会社 ミカタ
所在地 千葉県松戸市小金原六丁目2番地4
設立 2004年
従業員数 13名
事業内容 言語に特化した介護サービス。
同県内市川市、船橋市にも事業所を持つ
URL http://www.gengo-mikata.jp/

楽しく学ぶための教材を 電子黒板で有効活用

言語を楽しく学習するためには、クイズや歌、動きを伴うレクリエーションなど、多様な学習教材が欠かせない。同じメニューを使い過ぎると飽きてしまうし、毎回趣向を凝らした教材を手作りしていると職員の負担が増してしまう。

そこで良質な教材を共有しつつ、利用者の方にもわかりやすさを増す方法として企画したのが、IT──教材の電子化と電子黒板(シャープ製。大型ディスプレイの画面をタッチ操作したり、書き込みしたりできる)・タブレットの活用だった。

ITコーディネータ・鬼澤健八氏の支援を受けながら、利用するソフトの選定や活用の流れを検討し、手書きしていた教材を整理してプレゼンテーションソフトなどで電子化していった。

「タブレットを配布して電子黒板と同じ画面を表示することで、後ろの席の方でも内容が見やすくなりました。タブレットに書いてもらった回答を画面に表示して皆で共有することもできます。また、動画の教材と連携しやすいのも電子化のメリットです」と松本氏は話す。

この教材はクラウド上のストレージを介して3事業所で共有。言語聴覚士の教材作成の効率化に役立っている。今後は、『脳楽習®』シリーズとして、他の事業者への販売も予定しているとのことだ。

言語訓練の様子。電子黒板に表示された教材は、配布したタブレットでも活用できる。一人ひとりの回答を電子黒板に表示し、共有することも可能。(写真提供:ミカタ)

言語訓練の様子。電子黒板に表示された教材は、配布したタブレットでも活用できる。一人ひとりの回答を電子黒板に表示し、共有することも可能(写真提供:ミカタ)

良いタイミングで鬼澤氏の支援が得られたのは、公益財団法人千葉県産業振興センターにて「フロンティア企業支援事業」に選ばれたことがきっかけだ。

渡辺社長は、「千葉県商工労働部、地元の松戸商工会議所、千葉県産業振興センターなど支援機関の方にご相談し、施策の紹介や支援、励ましをいただいています。職員の方々にも助けられました」と振り返り、会社の歴史を物語るかつての預金通帳を見せてくれた。

その日の残高金額は16円。開業後、土地、建物、自動車をそろえたが、運転資金を借り入れできず苦しかった時のものだ。その時期をともに乗り切ったスタッフは、ミカタの財産なのである。

職員向けの研修風景

職員向けの研修風景

「志を持って仕事をしている職員が大量の仕事に追われず、優しい気持ちで介護に臨める環境づくりを進めたい。働きやすい職場になるよう電子黒板のシステムを有効に活用していきます」と渡辺社長。

デイサービスに訪れ、リハビリを前向きにこなす父の姿も渡辺社長の支えになっているという。

「最初は『元の元気な父に戻すのだ』と力んでいましたが、穏やかに笑っている父を受け入れることができ、新しい関係が構築できました。介護は家族内だけで抱えないことが何より大切です」

ミカタの取り組み

*ミカタは、「攻めのIT経営中小企業百選2016」に選定されました。

 

サポーター紹介

おにざわIT経営オフィス代表一般社団法人千葉IT経営センター理事鬼澤健八氏

おにざわIT経営オフィス
代表
一般社団法人千葉IT経営センター理事
鬼澤健八氏
(ITコーディネータ)

千葉県を拠点に数々の支援実績を持つITコーディネータ。これまでも支援先数社が中小企業IT経営力大賞等に入選している。

経営者の思い、企業の特徴や課題を深く理解し、社員の意欲を高めながらプロジェクトを前に進める手腕には定評がある。現場リーダーへのサポートは人材育成にもつながっている。

ミカタへは、同社が千葉県産業振興センターの「フロンティア企業支援事業」に選ばれたため、県の支援専門家として派遣された。導入が決まっていた電子黒板をどう使いこなすか、機能と現状を照らし合わせ最適な運用を指南している。

渡辺社長は「学習教材を電子化し販売するまでに生じる様々なことを支援していただいています」と笑顔で話す。

鬼澤氏は「ミカタさんの思いを形にするのが私の仕事。社長の豊富なアイデアを具体化していく現場をしっかりサポートしていきます」と力を込めて語った。