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動画あり)「また来てしまう店」にするデータ活用  購買履歴分析で縮小業界を攻める!

2018年冬号加筆 2018.01.04


市場規模はピーク時1992年の46%、なんと50%を割っているクリーニング業界*。このなかにあって5年間で売上を10%伸ばし、利益を上げているのが、長崎県のスワンである。
* 日本クリーニング新聞「ホームクリーニング総需要額の年別推移」より

その理由の一つは、原誠一社長が実行してきた顧客の利便性を第一に考える出店策と、原竜一常務が主導しているITの活用にあった。

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仕事中の服装がラフになり、日常生活においてもファストファッションが広がってくると、クリーニング店を利用する回数も減少。御用聞きによる集荷や取次を主体にする家族経営の会社は利益を出しにくくなった。さらにクリーニングは工場がいるので製造業のように設備投資が必要となり、参入しにくい業種だ。
 

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常務取締役 原竜一氏

 

1年更新の会員制度、そのメリットは?

P06_swan_02同業者は小売業の傍らクリーニング会社に取次をする店が多かった。原社長は、営業力を発揮し多くの注文を受けていたが、「万が一、自分に何かあっても事業が続けられる体制」を作りたいと、積極的に投資をして店舗を拡大しつつ自社工場を作った。

出店にあたっては、「クリーニング店にわざわざ足を運んでもらうのではなく、買物ついで気軽に出せる」ことを重視。人が集まる県内商業施設を中心に積極的に店舗を構え、現在47店になっている。

立地の良さから顧客を獲得したスワンは、一度来店してくれた顧客にリピートしてもらう策として、15年ほど前から有料で1年更新の会員制度を運用している。クリーニング業は、顧客の服を預かるため住所や名前を聞くことができる。それを活かしDMなどを効率的に出す方法を探した。他業種の事例も参考にしたという原常務は、有料会員制度の意図を次のように説明する。

「無料にして永年継続という方法もありますが、1年切り替えにすることによって、更新時に住所変更がないかなどを直接確認できるメリットがあるのです」

代表的な販促策であるDM送付において、困るのが転居による不達だ。毎年確認すれば転送時期内に住所を変更しデータベースの鮮度を保てるというわけだ。現在、会員は12万人に上っている。

次に、顧客データベースを活かし、顧客ごとの購買内容を深く知って効果的な販促を行うために、顧客別・品別の売上管理と分析システムの構築に取り組んだ。

「単品管理をしたいとPOSシステムを探しましたが、10年前はとても高価でした。そこで、知り合いのプログラマーの協力を得てオリジナルのシステムを構築し、顧客リストと結びつけられるようにしました」
 原常務はこのように話す。

データベースシステムは自社で設計・運用可能な「FileMaker」を用いた。
受付に置くレジにはパソコンを使用、キーボードはクリーニング独特の受注内容を入力しやすいようにオリジナルのものを製作した。

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クリーニングの依頼を受けるとパソコンから受注登録を行い、ポイントカードをもとに顧客データとひもづけが行われる。

データベースに登録された受注情報と入荷情報は、クリーニング工場のパソコンから確認可能となる。
 

会社概要 株式会社スワン
住所 長崎県長崎市古賀町867番地13
設立 1970年
代表者 原 誠一氏
従業員数 150名
事業内容 繊維製品のクリーニング「スワンドライ」
URL https://swandry.jp

 

店舗のデータを本部に統合 RFM分析で販促策

現在、47店舗のレジデータは、15分単位で本部のサーバーに送られ、本部からは、今日の売上がリアルタイムに把握できる。原専務は「データの把握がリアルタイムになると、すぐに数字を見て実態をつかみ理由を考えるようになりました」と話す。経営判断のスピードが向上した。

●店舗をつなぐネットワーク回線

店舗のネット接続には5年前からMVNOを利用している。
その前はUSBメモリで店舗のデータを集めていた。リアルタイム接続の有効性はわかっており、できるだけ早く実施したかったが、常時接続回線は一定の費用がかかる。1回線5000円として50店舗なら年間300万円、1店舗の売上からみると費用が高額だった。

MVNOによる格安通信サービスが開始され、「コストが約1/5となり、これなら使えると。やっと時代がついてきた」(原専務)のだった。

ただしモバイル回線のため、万が一の接続不良を考慮し、レジ機能はネットワークに接続できなくとも店頭のパソコン単体で動くように設計しているという。
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●購買データの活用

会員データは本部で一元管理し各店と連携しているので、一人の顧客が複数の店舗を利用してもデータは一つに保たれる。購買データは購買回数、金額などによってRFM分析(Recency、Frequency、Monetary)し、顧客を3つのランクに分けているという。

「DMは、VIPの方だけ、会員全員など、時期や内容によって選んで出すことが可能になり、無駄が減りました。また、会員カードをレジに通すと会員ランクが表示されるので、VIP会員にはその場で一声かけるなどの対応をしています」と原常務は説明する。

実は最近、同社が買収した店舗に一連のシステムを導入したのだが、導入後売上が2割アップしたという。 データ分析を基盤にした販促策の有効性が証明されたといえる。

 

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クリーニングの通販で 全国の顧客と取引を

スワンは、縮小傾向にある市場でシェアを拡大するための、次の策も怠らず、Web・SNSでの情報発信もまめに行っている。

また、来店顧客客向けのネットサービスとして、

Webにてクリーニング品の進捗確認や受取り予約ができるサービスを開始した。

 

スワンのホームページより>

 

クリーニングの進捗確認・引き取り予約サービス

クリーニングの通販

 

 

また、ふとんクリーニングのネット通販にもトライし、反響が高まっている。首都圏でも近くにクリーニング店がなく困っている顧客は、多いようだ。

「通販の売上の半分は関東圏のお客様です。重い布団をクリーニング店まで持っていくのが大変で通販を選択される方、故郷に住んでいるご両親の家事サポートとして申し込まれる方もいらっしゃいます。長崎県は西側が海ですので店舗を広げるとすれば佐賀や福岡に出ていくことになりますが、九州の他県に工場を新設して進出するより、全国から広くクリーニングを受ける方向が事業拡大にふさわしいと考えています」
原常務は今後の経営方針をこのように話す。

「東京のクリーニング店のライバル、長崎にあり」である。

そして、「自社のITシステムで一番のものは?」との質問に、「全部です。必要なものを一つひとつ作ってきましたので」と笑顔を見せた。

 

<インタビュー内容を動画で! 原竜一常務が語るIT経営の歩み>

 

 

NEWS) 地域連携による新プロジェクト「五島産椿油プロジェクト」

スワンは、クラウドファンディングによる社会認知をはかりながら、JA ごとう産椿油及び長崎県五島産椿油配合洗濯洗剤等の販売戦略を策定するプロジェクトを実施中。当事業は長崎大学経済学部、JA ごとうと連携体を組んでいる。長崎大学経済学部講義科目ともリンクしており、学生との協働学習を通じて、地域人材の育成にも貢献していく予定だ。