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ごみ収集車のIoT対応で情報も収集!―藤沢市のスマートシティ化

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2018年 夏号 2018.07.02


藤沢市資源循環協同組合  産学官連携

屋根に見えるのはIoTボックス。神奈川県藤沢市のごみ収集車は「情報収集車」でもある。

ごみ収集車に取り付けられたIoTボックス

 

ごみ削減へ個別収集連絡をアプリで効率化

藤沢市では、可燃ごみ・資源・その他ごみを、一部資源を除き、ステーション型ではなく戸別収集している。藤沢市環境事業センターの齋藤賢司氏はその理由を、「自治体として、ごみをできるだけ減らして資源化するためです。戸別回収は手間がかかりますが、各戸の出し方が明らかになるため、ごみの量が3割減りました」と説明する。

日々の収集業務のうち、資源回収・選別などを担うのが、藤沢市資源循環協同組合(以下組合)の組合員企業である。

ごみや資源の収集においては、収集漏れ対応や市民側の出し間違い、収集中に気づいた様々な状況について、市との連絡業務が発生する。これまで、緊急対応は電話、報告は日報をFAXで送っていたが、2016年より、市の勧めでタブレット・スマートフォンで使える情報収集・共有アプリ「みなレポ」を導入。現場で起きたことを画像と文字の両方で報告し、関係者でタイムラグなく共有できるようになった。

 

組合所長の金子義之氏は、「日報方式で業務が完成されていたので、最初に市から話を聞いたときは難しいと思いましたが、1カ月も経つとその場で画像を撮って送る便利さに慣れてしまいました」と笑顔を見せる。

「みなレポ」に上がった情報のうち組合担当地域の案件は大きな画面に表示させ、素早い対応を心がけているという。
続いて収集車のIoT対応が行われた。

 

ごみ出し状況・量を地域別に把握する

「みなレポ」アプリの提供を含め、当プロジェクトを藤沢市に提案したのは、市内にキャンパスをおく慶應義塾大学環境情報学部の准教授・中澤仁氏だった。

東日本大震災後、「子どもが行くグランドは安全なのか」と問いかけるツイートなどを見て実空間の環境情報が入手できない現状を実感。市内をくまなく巡る車は何かと考え、ごみ収集車の利用に行きついたという。

「収集車に温度や湿度、PM2・5など10種類の環境データを測れるセンサーを設置しました。収集したデータの活用により、幸せに・安全に・楽しく暮らせるスマートシティ化を図りたいと考えています」
中澤氏は構想をこのように説明する。

現在、約100台の収集車がIoT装置を載せて市内を走行し、周密なデータが得られている。また車両後方に設置したカメラの映像も蓄積している。

これらのデータでどんなことが実現できるのか。

まずはごみ・資源収集業務への利用だ。

分別違いが発生した場所を地図にマッピングすれば、地域ごとの特徴を見出せる。藤沢市では、「現状のデータからは、自治会が機能しつながりが深い地域は分別違いが少ない印象です。多い地域には、今後ご案内を強化していくなど対策が立てられます」(齋藤氏)という。

行動を変える「情報力」でスマートシティ化へ

慶應義塾大学では、収集車後方のカメラがとらえる収集中の映像に着目。AIにごみを判別できるよう学習させ、自動カウントするシステムを構築中だ。

 

「地域ごとのごみの量を算出・公開することで、協力してごみ削減に取り組んでいただけるのではないか。正しい情報が正しいタイミングで伝わると行動が変わるからです。それを情報力と呼んでいます」と中澤氏。

そして、「AI時代に画像は重要な情報だ」と強調する。地域の画像は「みなレポ」からもすでに5000個ほど集まっており、道路の陥没状況や落書きなどの画像を学習させれば、町の実態を詳しくつかむことも容易になるという。

組合の金子氏は、災害時の利用について可能性を見ている。
「ごみ収集車が動いている平日であれば、災害発生時などに冠水箇所や橋の状況など、防災情報の連携もできるでしょう。藤沢市の職員の方3500人がみなレポを使ってくだされば、さらに多くの情報が収集できるはずです」

大学、自治体と連携し、現場が積極的にIT導入を進めた藤沢市資源循環協同組合の活動について、県内組合の経営指導を行う神奈川県中小企業団体中央会・経営支援部部長代理の内田進氏は次のように話している。

「統制が取れ、やると決めたことを皆が確実に実行できる組合です。システム導入が効率化につながっているので、業界や他の組合に伝播させていきたい」
藤沢市は、地方版IoT推進ラボにて茅ヶ崎市、寒川町、横須賀市とコンソーシアムを組んでいる。ごみ収集車の取り組みを核にしたスマートシティ化の広がりが期待される。