【専門家インタビュー】社員が辞めない会社へ―メンタルヘルスの視点
2018.07.10
経営者・管理職が「兆候」に気づける力を
退職率を下げるために、会社ができることは何か─働きやすい職場づくりには、働く人の内面にも目を向けていくことが大切である。日本ではまだまだ注目度が低いメンタルヘルス。しかし感度の高い企業はすでに取り組みを始めている。
カウンセラーとして多くの社会人と向き合ってきた浅賀桃子氏に、現状の課題と対策を聞いた。(編集部 文中敬称略)
浅賀桃子氏プロフィール
ベリテワークス株式会社 代表取締役
IT産業の人事職を経て、独立。企業のメンタルヘルス・ストレスチェック支援サービスを手がける一方、IT事業も展開。
カウンセリングを身近なものにしてもらうため、スヌーピーと仲間たちの漫画を題材にした「スヌーピー心理学セミナー」も行っている。
https://veriteworks.co.jp/
─せっかく採用した若手の退職は多くの企業の課題です。カウンセラーの立場から、現実はどのように見えていらっしゃいますか。
浅賀 新卒者が3年で3割辞めるという現象は変わっておらず、メンタルの問題はその要因の一つになっています。職場での人間関係やコミュニケーション面が大きいといえます。
─ジェネレーションギャップもあるでしょうか。
浅賀:いつの時代にもその点はあります。若い方はSNSでつながっているけれど人間関係は淡泊で、与えられたタスクをこなせばいいと、人には無関心になりがちです。一方、管理職の方は無意識にご自身の成功体験を元に考えてしまいますが、今の時代には通用しなくなっています。
●自身の成功体験で考えないことも大切
─経営者・管理職側はどのような点に気を付ければよいのでしょうか。
浅賀 退職の意志表示を受けて「そのような兆候はなかった」と驚くケースが多いのですが、必ずどこかに兆候は表れていて、それに気付けなかったのです。
問題意識が高い会社は、管理職の方への研修などでお話しすると「全然見ていなかった」と認識を変え、具体的に取り組みを始められます。
メンタルの問題は弱いからではなく、誰にでも起こりうること。自分の基準を押し付けず捉えたいものです。
─カウンセリングマインドが必要なのですね。御社では、企業と契約して社員の方へのカウンセリングサービスを提供されています。どのような形で行われるのでしょうか。
浅賀 会社の中ですと、周りの目や評価を気にして相談しにくいことがあります。当社では、会社と契約をして、指定した日時の範囲で社員の方が自由に予約を取りカウンセリングを受けられる仕組みを提供しています。相談がゼロでもすべて埋まっても定額です。個人名は会社にお知らせしませんので、安心して話しに来ていただけます。
●ITが苦手な社員にも配慮し、環境づくりを
─働く方の最近の「困りごと」に傾向はありますか。
浅賀 実はリモートワークの戸惑いのようなものは意外と多いです。例えば上司が外出がちで、連絡を取るITツールがあるものの抵抗を感じるなど。周囲の雰囲気を感じながら仕事をしてきた方には、戸惑うこともあるようです。
─それは意外でもあり、わかる気もします。
浅賀 どこでも仕事ができる環境は手段としてとても大切です。育児、介護などがあっても退職せず働き続ける環境づくりになります。うまく活用できるかどうかではないでしょうか。
─先ほどの、コミュニケーションの方法や兆候に気付くことが基盤なのですね。
浅賀 そうですね。人数が少ない会社ほど、一人抜けたらその穴は大きい。
コミュニケーションにおいて「言った」と「届いた」は別ものです。言い方、聞き方、観察の仕方を磨いて、兆候が見えたら必要に応じて専門家につなぐというやり方は有効だと思います。
(聞き手 COMPASS編集部)