障がい者就労自立の支援で生まれたIT活用のニーズとは?
*IT導入補助金の活用販売管理公的機関・NPO等21から100人販売管理
2019年 冬号 2018.12.17
販売業務で業務改善 より働きやすい職場に
―社会福祉事業におけるIT導入補助金活用事例
「障がいのある方が仕事を通じて社会とつながり、活き活きと生活・自立できる機会を増やすことが目的です」
奈良県の社会福祉法人「ぷろぼの」理事の米田英雄氏は、木のぬくもりが暖かい「ぷろぼの福祉ビル」(奈良市大宮町)オフィスにて事業目的をこう語る。同ビルでは各階で支援プログラムが実施され、1階では、就労の場でもある食堂を運営している。
障がい者の就労支援は、働く意欲を持つための就労前の準備・訓練、日常生活スキルの習得、職業スキルを身に着ける訓練、仕事をする場の提供、就労先とのマッチングなど多岐にわたり、ぷろぼのでは下図のような7つのステップで事業を実施。
2018年8月現在の利用者総数は、県内5事業所・県外2事業所、計7事業所で265名である。身体、知的精神、発達など障がいの種類によらず受け入れ、「特性を理解しながら寄り添ってトレーニングを行っている」(米田氏)という。
会社概要 | 社会福祉法人ぷろぼの |
住所 | 奈良県奈良市大宮町3-5-39(事業所7か所) |
代表者 | 理事長 山内民興氏 |
設立 | 2006年 |
従業員数 | 約60名 |
事業内容 | 障がい者の就労移行支援、就労継続支援等 |
URL | https://probono.vport.org/ |
働く場を増やす取り組みで販売管理業務に課題が
力を入れている事業の1つが、「就労継続支援」である。ぷろぼの自身が事業を立ち上げ、トレーニングを受けた障がい者に
働く場を提供している。雇用して最低賃金以上を支払うケースと、工賃を支払うケースの2通りがある。現在はホームページ
制作、会計ソフトへの記帳支援といったIT関係、独自商品の企画開発・販売、食堂事業などが実施されている。
特に雑貨やお茶の販売など商品を管理・発送する業務においては、取扱い数の増加に伴い業務が煩雑になり、発送ミスや在庫記録と棚卸数が合わないなど、課題も生じていた。
そこで、中小企業を支援する専門家組織・ヒューリットMFに業務分析やIT活用の可能性を相談することとなった。
担当の一人、ITコーディネータの藤岡秀和氏は分析結果を次のように説明する。
「現場を拝見し業務の流れを整理するなかで、就労継続支援事業の販売業務にITを入れ業務改善を行う有効性が見えてきました」 表計算ソフトや無料ソフト、紙による管理が混在し、一つのファイルを修正したものの、もう一つを直し忘れ整合性が取れないこともあったという。
一元管理による効率化 業務分析が大きな学びに
そこで2017年2月、販売管理システムの導入を行った。
機能、使いやすさや価格など求める要素の観点から5つのシステムを採点し、クラウド型の販売管理サービス(販売ワークス)を選んだ。
「見積から請求まで情報を一元化して二重入力をなくし、効率化を図れることを主目的に選定しました。さらに、購入前にお試し利用し、実際のデータを入力して試していただきました」
藤岡氏とともに支援を進めた矢谷潤二氏は導入のプロセスをこのように振り返る。
操作に慣れた半年後くらいから、システムの効果を、より実感できるようになったという。
そしてこの取り組みには、「IT活用による販売業務の効率化」にとどまらない効果もあった。米田氏は次のように打ち明ける。
「ルールを整備すべく、職員が業務フローを作成しましたが、書く力や改善の力が付き、一層の学びになりました。ITは単独であるのではなく、人が考えて使っていくものです。相乗効果で両方が育つことが大切ではないでしょうか」
今後は、Pマークの取得も視野に入れ法人としての価値を高めたいと意気込みを語る。
障がい者が働く職場では、起こりうる様々なケースを想定して工程を管理し、細かなマニュアル化が求められる。
仕組みを作るのに工数を要するが、整備されれば、そこは障がいの有無にかかわらず、皆にとって働きやすい職場となる。
社会に対して有用なノウハウが蓄積されていくのだ。
●サポータ紹介(ITコーディネータ)
一般社団法人ヒューリットMF
経営革新支援機関として認定されている ヒューリットMFは、中小企業支援、IT活用支援を行う10名の専門家による組織。
一人ひとりが専門家として個別に活動している一方で、組織として取り組むべき案件にはチームを組んで支援を行っている。藤岡氏、矢谷氏とも、Webサイト活用・構築支援をはじめ、ものづくり補助金のサポート、製造業の支援などを積極的に行っている。
ぷろぽのとの出会いは、奈良市で行っていたプロジェクトがきっかけ。業務分析やIT活用についてサポートすることとなり、2017年のIT導入補助金を案内した。
米田氏は「プロに本音で相談できてよかった。一般企業のスタンダードを教えていただき勉強になりましたし、IT導入補助金活用のアドバイスも受けられました」と感想を話している。