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スタートは、IoTを活用した鳥獣害対策の実証実験 ー木更津市と共に「スマートシティモデル」づくりへ

2019年 夏号 2019.05.27


「実は、鳥獣による被害が深刻です。とくにこの辺りはイノシシが出て農作物を荒らすだけでなく子どもが襲われそうで生活上も心配…」─千葉県木更津市の農家が発した一言が、「スマートシティモデル」づくりへの実証実験のスタートだった。その第一弾がIoTを使った鳥獣害対策である。


 

モノとモノが通信してデータ収集や動作を行うIoTは、多様な現場の課題を解決できるICTとして期待が高まっている。
活用にあたっては、地域社会における人手不足や産業の衰退などのさまざまな課題とIoTの活用方法を結びつけるところが難しく、活用推進の「壁」の1つとなっている。

「ICT活用による地方創生支援」を明言し、ここに積極的に取り組んでいるのがNTT東日本である。
IoT活用支援においては、畑やビニールハウス内の環境情報や製造機械の稼働状況を、センシングやモニタリングするサービス「ギガらくWi‐Fi ハイエンドExプラン/ハイエンドプラン」のIoTサポートオプションを提供している。
一方で、まだどのようにIoTを使えばよいか試してみなければわからない分野については、NTT東日本が課題をヒヤリングし、地域とともに実証実験を行うなどの活動も展開している。
その際は、地域事情や課題に即してより良い方向を見出すべく、地域の多様なプレイヤーと協力して解決策を見出していく。

では、木更津市と多様なプレイヤーとともに展開中の「スマートシティモデルづくり」第一弾である、IoTを活用した鳥獣害対策について紹介しよう。

 

センサーとカメラで監視、遠隔からの給餌も

木更津市における鳥獣による農作物被害額は2016年度に2196万円を示し、5年前の2.5倍に上昇している。
地元の猟師は高齢化が進んでおり、人数は限られる。檻を設置し、入ったイノシシを捕獲する方法を試みているが、毎日、捕獲されたかどうかの見回りが必要となり、捕獲した動物の処理に必要な道具を取りに戻ることもある。
そこで、IoTを活用し、効率的かつ安全にイノシシを捕獲する方法を考案。2019年4月より実証実験を行っている。簡単な仕組みから始め、結果を見ながら改良していく。

システムのポイントは大きく3点ある(下図参照)。

①カメラによる監視・解析、動物の行き来を検知するセンサーで、遠隔で檻の状況を把握
②遠隔操作により、無人で餌をまける給餌システムで、イノシシが警戒心なく檻の中に入るように習慣づける
③センサーで動物を感知した場合、映像によって動物の大きさや種類を把握する

①のシステムで「毎回見回りに行く」手間を軽減、②のシステムで人間の匂いを消しイノシシを檻に誘導し、③のシステムで、捕獲された動物に合わせて適切な人員や道具を準備して効率的な処理を行う。

 

地域産業の創出・活性化、そして地域経済の循環へ

本システムで捕獲したイノシシは、地元のジビエ加工・流通会社を通じて販売し、ジビエ産業を地域産業として発展させる計画だ。人手不足、高齢化といった課題を解決しつつ、自然と共生し、地域資源を活かして新たな価値を創造する産業振興を支援する。

 

今後は、対象分野を農林水産業、商業・観光、福祉、防災・安全安心と順次広げ、課題に沿ったICTの活用を推進する。
めざすのは、人と自然が調和した持続可能なまちづくり。木更津市における取り組みの情報は、「スマートシティモデル実証実験」として、成果や効果を積極的に他の地域へ発信していく。