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新規事業開発・利益増の背景に、改良を続ける基幹システムとチャットの活用

2020年冬号 2019.12.10


5年間で粗利益1.4倍に
毎年のIT投資で成長を続ける理由とは?
  ―福岡県北九州市・シルクスクリーン印刷 グランド印刷

「IT化で時間を確保できるようになり、ここで年に3回くらい、ライブを開催します。システムの改修は継続中で、毎月のIT投資額は30万円ほど。やりたいことはたくさんあります」
グランド印刷(福岡県北九州市)の小泊勇志社長は、訪問時に破顔一笑、こう話した。

本誌2012年夏号にて、経営改革へのIT活用を取材してから7年後の再訪問である。

 

代表取締役社長 小泊勇志氏

オフィス風景

 

7年前の本誌掲載時は取締役としてすでに経営を任され、どこにいても顧客情報や受注・進捗状況がわかる基幹システムをクラウドで構築し、運用を始めたところだった。

その後、シルクスクリーン印刷・ディスプレイに加え、不動産業の販促支援、看板・装飾、デジタル壁紙など次々と新規事業を軌道に乗せてきた。現在挑戦中なのが、ターポリン幕印刷通販の「まくする」だ。

5年前に比べ、粗利益は1.4倍に増えた。その要因とは?

 

会社概要 株式会社グランド印刷
住所 福岡県北九州市門司区松原1-2-5(事業所は東京、福岡にも)
設立 1969年
従業員数 34名
事業内容 シルクスクリーン印刷、看板・装飾、壁紙等
URL https://grand-in.co.jp/

 

同じ人数で14倍の顧客に対応
業務情報はチャットで共有

新しく立ち上げた事業では、訪問営業担当を置かずネットや電話で受注するスタイルとした。

「皆で顧客対応すると、スピーディにノウハウが共有され個人のスキル差に依存しなくなります」と小泊社長は実感を話す。

これを下支えするのが改修を重ねている基幹システムである。すでに受注管理、顧客管理、原価管理などがデータ連携・一元管理できており、今月の粗利益や顧客別の売上状況などほしいデータを同一システム上で自在に見ることができる。

同時に、自動化にも力を入れ、例えばWebから注文が入った場合、ボタンを押すだけでシステムに顧客情報や売上情報が反映され、粗利も計算される。7年前に500社程度だった顧客リストは今や7000社レベルに増大したが、同じ人数で対応できているという。

コンタクトできた顧客には、関係を強化すべく、興味をそそる小冊子やカタログを作り定期的に送付している。商品アイテム数が多いBtoBのビジネスでは、アナログのコミュニケーションは欠かせない。また顧客リストや購買履歴データが事業企画のヒントになっているという。

スタッフのアイディアで多様な販促ツールを制作

こうしたビジネスの「今」を社内でリアルタイムに共有するのが、チャットツール「Chatwork」(チャットワーク)である。

営業日報や受注などシステムにデータが入ると、関係するチャット内の業務グループに自動的に流れていく。そのうち、例えば粗利率が基準値を下回るなど検討すべき案件には担当者がコメントを求められたり、小泊社長が詳細を確認したりして対応・改善する。

皆で効率よく全体感をつかみつつ、改善対応も怠らない。

 

失敗もするなかで要件定義のコツをつかむ

途中、システム会社が事業を停止してしまったり、思うようにシステム要件を伝えられず、後で大幅に修正したり、道は平坦ではなかった。しかしこの経験から、ITベンダーへの依頼(要件定義)に慣れ、改修も比較的スムーズになった。

システム構築時にサポートを行ったITコーディネータの荒添美穂氏は、「事業の多様性に応じたシステムの積極的な改修と、チャットによるリアルタイムマネジメントで、全員参加型の経営が実現できています」と評価する。

「ITの入口は業務の効率化ですが、大事なのは売上を上げて儲けるためにいかに活用するか。必死になって業務をするのではなく、ロボットやコンピュータが業務を担ってくれ、どんな商品企画を立てたらお客さんが喜ぶかなどを考えて働くほうが楽しいでしょう。働き方改革の時代ですか」と小泊社長は力説する。自身も子育て中であり、時間の使い方の大切さが身に染みている。

今後は、各事業を伸ばしつつ、事業責任者を育てていきたいとのことだ。