ご用聞きして家庭に醤油を。「古くて新しい」製造販売業は、なぜRPAを入れたのか
*IT導入補助金の活用人材活用・採用営業強化業務の効率化販売管理顧客管理製造販売業21から100人AI・RPA
2020年春号 2020.03.14
全員営業へデータ抽出を自動化(IT導入補助金活用事例)
―岡山県岡山市 醤油製造販売・キミセ醤油
醤油を買う場所はどこか。スーパーマーケット? コンビニエンスストア?
岡山県に住むと醤油は届けてもらえるのだ。
昔ながらの醤油の製造直販を行っているのは岡山市のキミセ醤油。県内には「縄張り争い」が起きるほど多数の醤油会社が存在したが、60年ほどで10分の1に減るという市場変化の中、市民生活に欠かせない存在となっている。
同社は、「備前焼大甕調法」による独自の手法で自社製造し、営業担当者が電話や訪問で「御用聞き」をして販売する。
会社概要 | キミセ醤油株式会社 |
住所 | 岡山県岡山市南区妹尾217(営業拠点5ヵ所) |
設立 | 1955年(創業yは慶應2年) |
従業員数 | 約70名 |
事業内容 | オリジナル醤油の製造・販売 |
URL | https://www.kimise.co.jp/page |
顧客情報は財産 一元管理して対応
20年ほど前、東京の金融機関に勤めていた永原琢朗社長は、会社を継ぐために岡山に戻り、ホームページの立ち上げや顧客情報・コンタクト情報のシステム化などを進めてきた。
消費者への直販は、顧客の特性を理解したうえで、コミュニケーションをとることが大切だ。営業の一言で、商品に興味を持ち購入してくれることも多々ある。
そこで、同社は直販ビジネス向けシステム「田舎主義」を導入して、訪問、電話それぞれで顧客から得た情報を販売情報とともに管理。情報を属人化せず「会社の財産」とした。注文の電話がかかってきたら、電話番号や名前からデータを参照し、直接の営業担当でなくても相手の状況を理解して対応や商品案内ができるようにしている。
各家庭を訪問する32名の営業担当者は、ハンディ端末で情報の参照、訪問時の販売情報や顧客から得た情報の入力を行う。事務所に戻るとデータは自動的にシステムに同期される。
採用難の時代 単純作業はコンピュータに
顧客との関係を深め販売力を上げてきた同社は、2019年秋にRPA(パソコン上の作業を自動化するロボットシステム)を導入した。その背景を永原社長は次のように打ち明ける。
「IT活用には積極的に取り組み、新卒者の採用などでも“古くて新しい会社”と思ってもらえるようになりました。ただ、人口構造の変化で採用難時代を迎え、単純作業はコンピュータに任せて効率化し、より営業にシフトしたいと考えたのです」
一人で2000件を超える顧客を持つ営業担当者は、最適なタイミングで顧客に働きかけたい。しかし、ランダムに電話をしては効率が悪く、今、コンタクトするとよさそうな顧客、例えばちょうど醤油が切れそうな顧客を探して電話をかけるためには、膨大なデータからのリスト抽出作業が必要だった。
この「営業リスト抽出」を自動化するのが今回の取り組みだ。
RPAはいくつかの候補から「UiPath」を選定。導入に際しては、初期段階でのシナリオ作成、また後半での内製化について、リテラス社からサポートを受けた。
アポ取り時間が30分減 若手が覚え、さらに活用
IT導入補助金の採択も受け、2019年秋にはRPAが稼働。販売データの中からどのような条件(例えばある商品を3か月以内に買った実績がある顧客など)を抽出ポイントとするかは営業部門の幹部と検討し、RPAの操作方法の習得は、主に事務部門の若手が担当。ベテランと若手が共に携わるプロジェクトとなった。
現在は、システムから条件に合うデータを探し、Excelファイルに落とす作業が自動で行われる。さらに、社内で利用しているチャットシステムにお知らせが流れる。一連の作業を省力化できた。
まだ導入して間もないが、アポイントを取る業務時間は一人30分以上短縮できているという。
「営業担当者はより営業に集中し、事務部門は捻出した時間で電話対応力を高めるなど、営業面もカバーしてもらう予定です。RPAはまだまだいろいろな業務に使えますし、1年経つと季節商品の販売状況などもわかり効果が高まるでしょう」と永原社長は今後の展望を語る。
RPAで自動化できる部分を任せて効率化し、営業に投下できる時間を増加。売上を高め、生産性を上げる─―これを社員が生き生きと実行していくのが、キミセ醤油の目指す姿である。