経営者に聞く―少人数で売上を高める新サービスの発想
新ビジネスの開発サービス業20人以下IoT・位置情報タブレット・スマホ・アプリ
2020年春号 2020.11.03
IoTとスマホアプリで顧客本位のコインランドリーを
従業員3名の企業が実現したDXとは?
IoT を備えたコインランドリーがスマホアプリと連動し、顧客にも事業者にも新しい価値を提供─―wash-plus(千葉県浦安市)の「スマートランドリー」は、IoTのビジネス活用を具体化し、成果を上げた。この取り組みは、モバイル/ IoT の活用で経営力を高めた企業を表彰する「MCPC award」のモバイル中小企業賞を受賞している。
(システムの詳しい内容は、事例記事に掲載中)
→顧客本位のIoTコインランドリーとは?
https://www.compass-it.jp/pickup/4213
「設備を設置して待つ」事業を、「顧客本位に変化するコインランドリー事業」に変革し、新たな市場を開拓した同社の従業員数はわずか3名だ。
デジタルトランスフォーメーション(DX)として推奨されている「ユーザー自らがIT を活用して革新を図ること」を、なぜ実行できたのか。
経営者としての考え方・決断の背景を高梨健太郎社長にインタビューした。 (文中敬称略)
─―「スマートランドリー」は、「実ビジネスにおいて、IoTのこういう使い方があったのか」と、「MCPC award」の審査員からも称賛の声が上がりました。発想の出発点はどのあたりにあるのでしょうか。
高梨 私は商工会議所の経営指導員を務めた後、創業者である父と不動産会社を営んでいました。しかし東日本大震災が発生し、会社のある千葉県浦安市に液状化被害が発生。地価下落や人口減少などで不動産以外の事業も展開する必要に迫られました。そこで着目したのがコインランドリーだったのです。コインランドリーは空きスペースを活かす「投資」のイメージがありますが、「事業」として展開しようと決意したのです。
─―ただ洗濯機を置いておくのではなく、価値を提供していると。
高梨 まず、洗濯方法そのものに特色があります。特許を取得した、洗剤を使わずアルカリイオン水で汚れを落とす洗濯方法がアトピーなどに悩む方に支持されています。食料品には原材料が記載されているのに、コインランドリーでは、どんな洗剤を使っているかすら表記されていない状態なのです。
キャッシュレス決済(クレジットカード)への取り組みを発端に、スマホアプリを使って運営側にも利用者側にも付加価値をもたらすサービスの提供を考えたのが2016年です。いろいろなご縁を得て、2019年に「スマートランドリー」サービスを開始しました。現在(2019年12月時点)アプリをダウンロードした会員数は約2万人です。
─―洗濯乾燥機の空き状況確認やドアロック、利用頻度によるステータスなど、IoT、スマホアプリといった最新のITをうまく活用されていますね。
高梨 私はITの専門家ではないですし、アプリ開発は地元の専門会社に依頼しましたが、業界の固定概念にとらわれず、顧客の目線で発想した結果だと思います。古くからコインランドリー機械を作っているメーカーには相手にされませんでした。耳を傾け、一緒に取り組んでくれたのが広島県尾道市の山本製作所です。
「スマートランドリー」は、ポイントやクーポンを活用して、来店時間の分散化や、洗濯物の取り忘れ対策もでき、運営側にもメリットが大きい。ビッグデータも集まってきました。システムは同業者に販売し、「wash-plus」のフランチャイズ展開も行います。
─―テレビ番組でもよく取り上げられ各種表彰も受けていらっしゃいますが、従業員数は不動産業を含めて5名と少人数なのですね。
高梨 サービス業は、事業拡大に伴い必ず「人が足りない」問題が出てきます。人数を増やす前に、仕組みやシステムをつくり、少人数でいかに売上を高めるかが経営者としての仕事だと考えています。