複雑なシフト勤務を取り込み、勤怠-給与を連携 その結果何が変わったか
*IT導入補助金の活用働き方改革基幹業務(マイナンバー含む)医療・看護21から100人会計・給与・勤怠
COMPASS 2022年秋 2022.11.28
月末からの給与計算に残業続き 設定の山場を乗り越えて進む改革
―富山県富山市 医療法人社団桜仁会
「頭が痛い」といっても原因は一つではなく、どこの診療科で見てもらえばよいか悩ましいものだ。富山県富山市の医療法人社団桜仁会は、「脳とこころの総合医療」をかかげ、頭痛外来など5科からなる内科・脳神経クリニック、訪問看護サービス、グループホーム精神科デイケアと事業を展開し、地域の医療を支えている。
会社名 | 医療法人社団 桜仁会 |
住所 | 富山県富山市下新本町3-5 |
代表者 | 理事長:松田博氏 |
設立 | 1973年 |
従業員数 | 約50名 |
事業内容 | 医療(一般内科/脳神経内科・外科/心療内科/精神科/高齢診療科)、訪問看護サービス、精神科デイケア |
URL | https://www.toyamasakura.com/ |
事業内容に沿った多彩な勤務体制は事務処理に負荷も
スタッフは全体で約50名。事業の特性から職種は多様であり、業務内容に応じたシフト勤務や希望に応じた1日6時間などの時短勤務もある。給与計算にはきめ細かいルール設定を行っていた。
それゆえ、毎月の給与支払い業務には多くの時間を要し、複雑な処理が多いと仕事が属人化しやすいという課題があった。タイムレコーダーの数値はデジタル化していたがデータを取り込めるのは担当者のみ。また仕事のシフトが多様なため、休暇申請をした後、結果がなかなかわからないなど、スタッフ側も不便さを感じていたという。
ITツールの導入を国が補助するIT導入補助金が実施されていたこともあり、2021年に勤怠・給与分野を中心としたバックオフィスのデジタル化に踏み出した。
勤怠から会計までのデータ連携をイメージ
「実はプロジェクトのスタート後に人事異動があり、一時は中止の話も出るくらいでした。システムはすでに選定された後でしたが、私の視点でもう一度確認をしました。デモを見て、最終的に会計までデータが連動するイメージが持て、たくさんの企業が利用している安心感から、導入を最終決定しました」
前任者からバトンを受けてデジタル化推進を統括してきた事務部長の森井淳氏はこう振り返る。
選んだシステムは、オービックビジネスコンサルタントの奉行クラウドシリーズから「奉行勤怠管理クラウド」「シフト管理for奉行」「給与奉行クラウド」「給与明細電子化クラウド」である。シフト決定から勤怠の記録・管理、勤怠データを活用した給与計算と明細書の発行までをデジタル化し、業務全体を効率化するものだ。
地元でITツール・オフィス製品の販売&サポートを手がける山辺事務機を通じて導入した(同社は、IT導入補助金のIT導入支援事業者として認定されている)。
現場でプロジェクトを推進したのは、前職での実績を買われ2021年に入社した総務担当の横田里美氏である。
2021年1月、まず給与計算業務に「給与奉行クラウド」「給与明細電子化クラウド」を導入。勤怠管理は従来のタイムカードと2か月ほど並行利用して問題がないことを確かめ、「奉行勤怠管理クラウド」「シフト管理for奉行」を使い始めた。タイムカードの打刻はICカード、スタッフからの休暇申請や総務からの給与明細の配布は奉行のスマートフォンのアプリで行っている(パソコンからも利用可)。
社内独自のルールを理解し、給与計算システムに反映
デジタル化で事務効率を高める意義は理解していても、やり方が変わると誰もが不安に感じるものだ。推進においてはどのような点に配慮したのだろうか。
横田氏は、次のように話す。
「特に給与はお金のことですし、少しでも不信感がないようにと心がけました。『なんでも聞いてください』と、スマホの操作や電子化した給与明細のデータ保存や印刷方法など、気軽に聞いていただけるようにして、一つひとつ説明していきました。また、給与計算における社内のルールについては、前任者や現場のリーダーと密に連絡を取って理解し、これまでの運用と齟齬が出ないように作りあげていきました」
奉行クラウドでは勤怠管理のデータを給与システムに連動させて事務作業を大幅に軽減できるが、一般的なオフィス勤務に比べて多用な勤務形態をとる桜仁会では有給休暇の付与や特定日出勤の手当てなどきめ細かい対応をしており、単純な自動計算というわけにはいかない。
この点において、特に山辺事務機の存在が大きかったという。
「給与計算の際に手作業が増えると主観が入りやすくなります。だれが担当しても不平等にならないようシステムにルールを反映させる方法や、『このやり方で一般的なのか』という疑問など、経験が豊富なので単純なQ&Aではわからない点を相談できました」と横田氏は振り返る。コロナ禍で保育園が休園となり育児のため在宅勤務をせざるを得ない時もあったが、ZOOMで画面共有をしながらサポートを受けられるので、滞りなく進んだという。
山辺事務機の代表取締役社長・山辺知代氏は、次のように指摘する。
「きめ細かい勤務形態や端数の計算方法などをどう体系化するかがポイントの一つでした。奉行シリーズは、標準機能と運用を組み合わせれば、カバーできる範囲はかなり広いです。桜仁会様の場合、従来の勤怠管理システムを残すことも可能ではありましたが、シフト管理、勤怠、給与を一気に入れたことがテンポ良い導入につながりました。当社自身、奉行シリーズを利用しており、給与明細の電子化で明細の封入作業が不要になるメリットを実感していましたので、同時の導入を、自信をもってお勧めしました」
総務が現場仕事を手伝える体制に
勤怠管理から給与明細の発行まで奉行シリーズの活用が進むと、スタッフはアプリで給与明細を見ることにも慣れてきた。残業や休暇の申請においては、上長の承認もアプリ上で確認できるうえ、お知らせ事項が発生するとチャットアプリ「LINE WORKS」から通知が届くので、さらにスピード感が増した。
総務では、データ連携による自動化や規則に沿った処理による効率化、紙の給与明細作業からの脱却などにより、業務時間に余力を持つことができた。
森井氏は、導入効果を次のように説明する。
「捻出した時間は、訪問看護サービスの支払いを自動引き落とし対応にするなど、次なる効率化に活用しています。さらに、ドクターの書類準備やフロント業務、コロナワクチンの受付など、現場のサポートを積極的に行い、一人二役、三役とこなすことで、互いの業務について理解を深めつつサービス力の強化を図れています」
システム導入のプロセスを通じて横田氏が各部署とコミュニケーションを図り、総務部門だけが効率化して終わりではなく、組織の最適化を意識してきたことも大きいといえる。「一体感が出てきた」(横田氏)桜仁会では、DXの推進へ、基盤固めができつつある。
システム導入期間は約3か月、その後2か月ほどで運用が定着した。2022年10月以降は「奉行 年末調整申告書クラウド」「勘定奉行クラウド」の活用を進め、会計までのデータの連携により、導入効果をさらに高めていくとのことだ。
<サポーター紹介>――――――――
山辺事務機株式会社
代表取締役社長 山辺知代氏
ITコーディネータ、OBC公認インストラクター、中小企業共通EDI推進サポータ
地域企業にニーズにあった多様なITツールの販売、導入支援を行っている。IT導入補助金の申請にも対応(2022年IT導入支援事業者)。山辺氏は各社の業務特性や課題をよく理解して、目的に沿った設定や運用をサポートできる点が大きな強みである。
桜仁会の横田氏は「フットワークが良いので相談しやすく、ゴールに行けるという安心感がありました。丁寧に教えていただき、独自の給与体系を無事システムに反映させることができました」と感想を話している。
優れたシステムを現場で活かし使いこなすために、ユーザーに寄り添い活用をサポートする地元販売店は重要な役割を担っている。