2倍の給与を出せる業界に!
原価管理の積み重ねが生んだ変化
人材活用・採用業務の効率化経営の見える化建設業20人以下その他生産管理・原価管理
COMPASS ONLINE2023年夏 2023.06.22
赤字受注の回避は正確な原価把握から 積算業務の自動化も
――富山県・鉄筋工事業 旭鉄筋
採用情報に書かれている給与は「月給」制。富山県で鉄筋工事業を営む旭鉄筋(COMPASS2007年夏号掲載)は、地域の同業者がまだまだ「日給」で人材募集をしているなか、月給制、さらに週休二日制を導入している。
「受注に波がある建設業では、月給にすると仕事が少ない時期は経営が苦しくなるリスクもあり、なかなか踏み切れていません。しかし、人手不足が進み他の業界と人材の取り合いになれば、‘日給’というだけで、求職者からはじかれてしまうでしょう。業界を挙げての課題なのです」
代表取締役社長の井本秀治氏は、「入りたくなる業界」となるべく、待遇面を整えると同時に学生へのPRコンテンツ、動画など情報発信にも力を入れる。
同社の品質には定評があり、2024年に延伸する北陸新幹線の橋梁工事にも携わった。ただ、鉄筋は建設が完了した時にはコンクリートに覆われ、内部でしっかりと支えている役割ゆえ、目には見えなくなくなる。だからこそ社会インフラとしての意義、仕事の実際、同社が大切にしているチームワークなどを学生に伝えたいと、力を注いでいるのだ。
会社名 |
旭鉄筋株式会社 |
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所在地 |
富山県富山市水橋開発277-11 富山三郷企業団地内(他に上市工場) |
設立 | 1991年(創業1969年) |
従業員数 | 20名 |
事業内容 | 鉄筋工事業 |
URL |
●この工事は赤字か黒字か? きちんと把握したい
旭鉄筋では15年ほど前に、工事の原価を把握するシステムを導入した。日報にその日の業務を記録することからスタートし、独自のシステムを構築。工事で使用する鉄筋は発注者であるゼネコン(総合建設会社)から支給されるため、鉄筋の加工や工事の人件費、移動の経費などを原価として計算する。
「1年が終わるまで利益状況がよくわからなかった」状態を脱出し、得られたデータを活用して赤字受注の回避を目指した。
ただ、こうしたシステムは、スタッフ全員が作業時間等を毎日正確に入力することが前提だ。
「今では現場から戻ったら記録するのが当たり前になりましたが、つい忘れてしまう人もいて、慣れるまで時間がかかりました。記録が欠けているとデータが不正確になり、正しい数字が出てこない。正直なところ、途中で、諦めそうになったこともありました。顧問をお願いしているITコーディネータの吉田誠さんが都度、『何を実現するために原価管理システムを導入したのか』を確認してくれたので、都度、目的を思い出して入力を促したことが大きかった」と井本社長は振り返る。
公共工事からマンションなどの民間工事まで、仕事は一つひとつ異なるが、井本社長が原価管理を徹底して数字を見続けてからは、工事の内容を見るとおおよその費用感がわかるようになったという。。
赤字になるような発注額を提示された際は、データをもとに価格交渉を行うこともある。「ただ口頭でお願いするよりも、数字で詰めていくと納得していただけます」とのことだ。
社員に毎月安定的に給与を支払うには、適正な利益の確保が前提である。この「目的」に向かってシステムを使い続けてきたことが、旭鉄筋の力になっている。
●建設ならではの積算業務を自動化
鉄筋工事のバックヤード業務において、多くの時間を要するのが見積書を出すための積算(工事に関わる材料や人などの費用を積み上げること)作業である。一つの工事においては複数のゼネコンが競争し、さらにそれぞれの関連会社に見積依頼をするため、時間をかけて見積書を作成しても、受注するのは1割程度だという。
そこで、積算業務の効率化を図るため、アーキテック社の「拾之助」を導入。鉄筋工事の図面情報に基づいて寸法等を入力すると、積算に必要な部材を拾い出して重量などを自動積算するソフトウェアだ。導入後は、見積書の作成時間を以前の5分の1に短縮できた。
最近は、現場の責任者が見積金額を作成するところまで権限移譲も進めている。
「高度経済成長期は、職人の給与は高かったのです。建設業は今の1.5倍、2倍の給与を出せるような業界でありたい。そこを目指しています」
井本社長は、さらなる成長と業界全体の待遇改善の実現に向けてコツコツと「攻めの経営」を続けていく。
<サポーター紹介>――――――――
よしだまこと事務所 代表
吉田誠氏
ITコーディネータ
富山県を中心に北陸で活動するITコーディネータ。
公的機関での講師や専門家相談などに携わる一方、
地元の企業と直接契約を結んでの支援も多い。
経営者の立場にたって経営者の課題意識をしっかりと受け止め、その会社が何を取り組むべきかを明確にしてIT導入、活用をナビゲートする。一貫した姿勢と、経営者との対話力、ITへの知識等があいまって、経営者から信頼される存在となっている。
旭鉄筋とは吉田氏が独立開業した2006年当初からの付き合いで、現在も顧問として契約中。
同社が最優先課題と掲げた、適正利益確保のための原価管理システムの構築を支援した。スタッフが慣れない入力を忘れてデータがそろわない事態を防ぎ運用を軌道に乗せるため、逐次導入目的を確認しながら井本社長を叱咤激励。習慣の定着を後押しした。こうした経営者への働きかけ、ペースメーカーの役割も、ITコーディネータの大事な仕事である。
<旭鉄筋 井本秀治社長へのインタビュー動画>