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どの地域からどんな顧客が来ているか? ゴルフ場のマーケティング策

2015年 夏号 2015.09.08


減少するゴルフ人口、ゴルフ練習場としての未来はどうなるか──この現実に正面から挑んだのが神奈川県横須賀市の湘南衣笠ゴルフである。

社名 株式会社 湘南衣笠ゴルフ
所在地 神奈川県横須賀市大矢部1-3-6
設立 1969年4月1日
従業員数 25名
事業内容 ゴルフ練習場経営(自然の地形をそのまま利用した230ヤードの場内にターゲットグリーン10個を配置。打席は2階建てで計110打席)、その他ゴルフ関連事業
URL http://www.sk-golf.co.jp/

首都高につながる横浜横須賀道路の衣笠インターチェンジからほど近い場所にある同社は、1969年にオープンした歴史ある会員制の打ちっぱなし練習場である。営業時間は4時〜24時と驚くほど長いが、近所で農業を営む常連客が多い早朝から若年層が多い夜間まで、賑わいを見せる。休日には110の打席がすべて埋まり、順番待ちが出ることもある。

代表取締役社長 岩﨑聖秀氏

代表取締役社長 岩﨑聖秀氏

「父が創業した後、ゴルフブームの到来で軌道に乗りましたが、近年はゴルフ市場の減少傾向が続き、全国の練習場市場はピーク時の45%程度まで減っています」と、5年前から社長を務める岩﨑聖秀氏は、ビジネス環境を説明する。

考えが変わる契機になったのが、社長就任から数か月後に発生した東日本大震災だった。

震災から4日後に臨時営業したところ、足を運んだ会員から「暗い気持ちが晴れた」とお礼を言われた。「そのとき、『お客様が楽しい時間を過ごす地域のコミュニティ的な役目も果たしているのだ』と気づき、もっとお客様に喜んでいただけるよう前向きに経営しようと決意しました」という。

湘南衣笠ゴルフ

練習場の様子(左)と受付(右)

商工会議所の研究会で地域の潜在顧客を発見

南衣笠ゴルフのFacebook活用

FacebookやLINEでの情報発信にも注力。Facebookページではレッスンプロからの情報発信も行っている。

そこで、潜在顧客の発掘・販促やゴルフ人口を増やす取り組みにも注力。
ネットを使った情報発信、とくに顧客とのコミュニケーションには力を入れている。

例えば最近は写真で様子を伝えやすいFacebookを積極的に使い、Webサイトへのアクセス増、さらに新規顧客増という成果を生んだ。“ガラケー”ユーザーの顧客を視野に入れたメールマガジンの配信も継続的に行っている。また、若手社員の提案でLINEも顧客とのコミュニケーションツールとして使い始めた。

さらに、昨年からはGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を活用した会員分析とマーケティングを行っている。

もともと顧客の高齢化を鑑みて、「既存会員へのサービス向上を図りつつ、5年後10年後を見据えた仕掛けを打っていかなければ」との考えで調査会社などにマーケティングの相談をしていたが、相応のコストがかかることから、なかなか最終決断ができなかった。

そうした折り、横須賀商工会議所が展開する研究会「GISサロン 足元商圏戦略塾」に出会った。

顧客特性を視覚で把握 想定外の需要にも気づく

GISの活用でどんな場所からどんな顧客が来てくれているのかが視覚的に確認できた。

例えば、会員の多くは車で20〜30分のエリアに住む横須賀市民だが、市外居住者も思っていた以上に多いことや近隣でも顧客を獲得できていないエリアがあることが地図画面上で明確に示された。

会員データをGISに落とし込んで表示された「顧客分布」の画面例(提供:湘南衣笠ゴルフ)

会員データをGISに落とし込んで表示された「顧客分布」の画面例(提供:湘南衣笠ゴルフ)

さらに、東京や横浜からも頻繁に来場している会員がおり、居住地を精査すると高速道路のインターチェンジが近いことが分かった。同じ特徴を持つ地域にPRすれば多少遠方でも来訪が見込める可能性も確信した。

岩﨑社長は、「会員情報は以前からあったのに分析・活用できていませんでした。地域情報や居住者の属性情報などと重ね合わせて分析すると、効果的で効率的な販促策を考えられます」と話す。

足元の商圏を見直して、ゴルフの楽しさを広めたい!

休眠客向けの販促DMでは如実に効果が見られた。来場が一定期間以上ない会員から「車で20分圏内に居住=足を運びやすい」という条件で抽出した約700人にDMを送付したところ、150人程度の来場があったのだ。少量のDMで効率的に需要喚起できたうえ、「多数のお客様が戻ってきてくれたことでスタッフ側のモチベーションも向上しました」という。

研究会で異業種の地元企業と意見交換して、地域の店舗同士が連携する価値にも気づいた。

この経験を生かし、近隣にある喫茶店やパン屋など個人店舗と連携した“所在地域(大矢部地区)の魅力発信”にも着手。その第一弾として、至近エリアながら顧客数が少ない鎌倉・逗子地区向けに共同制作のPRチラシを配布した。

企業理念の中で掲げる「ゴルフ市場の創造」という観点では、従来から横須賀市内にある他の練習場3社と協業して若年層への啓蒙活動などに取り組んできた。こうしたマーケット拡大の施策にもGISを有効活用していく考えだ。

支援機関紹介

工藤幸久横須賀商工会議所
産業・地域活性課/情報企画課
課長 工藤幸久氏

横須賀商工会議所ではGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を用いた商圏分析サービスを提供し、地域企業の販促や顧客開拓を支援している。

この支援メニューを企画した産業・地域活性課/情報企画課 課長の工藤幸久氏は、「顧客データをデータベース化しそのデータを活用すれば、見込み顧客の可視化が可能となり戦略的な経営計画を策定できます」と説明する。

「足元商圏戦略塾」では、具体的な指標をゴールに定め、実践に移すプロセスをサポートする。

岩﨑社長は2014年のセミナーに参加した後、「足元商圏戦略塾」にて定期的に情報交換や進捗報告を行った。その過程で、「来訪している顧客層と同じ属性を持つ他地域の顧客」を重点販促対象にするなど、顧客の実態に深く切り込むことができた。

研究会を通じて異業種の地元企業と意見交換できたことも非常に大きな意義があったという。「他の方の指摘で自分だけではわからなかったことが理解でき、良い体験をしました」という。

同社の取り組みついて工藤氏は、「経営者が積極的に新たな取り組みに参加する姿勢が、今回の成果を生んだと思います」と分析している。

横須賀商工会議所

ICT活用支援のホームページ http://ict.yokosukacci.com/