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その情報は、顧客が価値を感じるか? 足を運んでもらえる店への挑戦

鈴木洋服店 三代目店主・鈴木貴氏

2015年 冬号 2015.10.01


緑深く天竜川やダム湖がきらめく国道152号線を北へ。自然豊かな浜松市天竜区に店舗を構える鈴木洋服店は、紳士服オーダーの専門店だ。林業で栄えた地域の人々の仕事服を担ってきた。現在は三代目店主・鈴木貴氏が店を支える。

紳士服市場は量販店の台頭やイージーオーダーの普及により大きく変化し、顧客の意識も変わってきている。今では同業者よりも既製服販売店が競合相手だ。

鈴木洋服店 店舗 ロケーション 

天竜川が形作る景観が美しい場所に店を構える

鈴木店長は「自分に合った服を求めるお客様がいなくなることはないとしても、人の行き来が多い街中に店舗を移そうかと悩んだ時期がありました」と打ち明ける。

考え抜いた末、「良いサービスを提供してわざわざ足を運んでもらえる店にしよう」と決意した。

来店客とはじっくりと話をし、着用目的や好みを把握し生地選びを行う。ボタンの位置、ウエストの絞り位置、襟のラインなどを相談し、活動的な職種であれば動きやすいゆとりを設けるなど、着心地よく満足感が高い「自分にピッタリの一着」を提供している。

最近力を入れているのはウェディングスーツ。結婚式の後は、上着の丈を詰めるだけでなく、目的に応じてリメイクできるのが強みだ。

鈴木商店イメージ画像

社名 鈴木洋服店
所在地 静岡県浜松市天竜区横山町631-1
従業員数 2名
事業内容 紳士服のオーダーメイド、お直し等
URL http://www.tailorsuzuki.jp/

顧客がほしい情報は別のところにある!?

鈴木店長が、こうした自社の特徴を多くの顧客に知らせるために使ったのがホームページである。

ITコーディネータ和田喜充氏のアドバイスのもと、低価格でホームページの制作・公開ができるJimdoを利用(当時は「みんなのビジネスオンライン」)して2013年にリニューアルした。

鈴木洋服店ホームページ

鈴木洋服店のホームページ
http://www.tailorsuzuki.jp/

鈴木店長と和田氏との出会いは、和田氏らが地域で自主開催している「北遠ブログ村」にさかのぼる。隣接市である磐田市の「ブログ村」活動を知った現・天竜商工会の仙田昇氏の尽力で始まったものだ。

鈴木店長は、ホームページを開設しネット販売を試みたが足踏み状態となり、ブログで少しずつ情報発信をしていたところだった。

和田氏は以前のホームページの課題として「完成品の写真を多用している点」を指摘した。「注文服を知らない人にとって、きれいな服が並んでいても既製品と同じに見えます。服を作るプロセスこそが訴求ポイントだと感じました」

鈴木店長にとって予想外の話だった。「型紙、仮縫いの様子などは仕事の途中経過ですから、見せられない。完成品の素晴らしさこそ見せるべきだと思っていました。でもそうではないと…」

完成するまでのプロセスを丁寧に表現することこそ、「こうやって作るからピッタリの服ができるのか」と顧客が価値を感じる肝なのだ。

そこで、最近では、ノミを使ってボタンホールの穴をあける写真や動画をアップするなど、積極的に作業風景を開示している。さらにオーダーの標準価格を提示し、顧客に費用の不安を抱かせないようにした。鈴木洋服店のホームページリニューアル

ブライダル分野での存在感を高めるために

現在は、少しずつ情報を増やし、ブライダル目的の顧客なら関連コンテンツが探しやすいよう目的に応じた動線の改善を続けている。また、スマートフォンからの表示が見やすいコンテンツ構成にも気を配っている(Jimdoではスマートフォン用のサイトは自動生成される)。

サイトを見てオーダーに訪れる顧客は徐々に増えている。立地の問題もサイトで説明しており、「若い方はグーグルストリートビューをご覧になっているので違和感なく来ていただけます」と鈴木店長。訪問客がどんなキーワードで検索したかのチェックも怠らない。

「既存のお客様を大切にしていくのはもちろんのこと、地域にさらに愛され信頼される会社を作っていきます。ブライダルなら鈴木洋服店、と言われるのが目標です」

鈴木店長はサイトリニューアルの手ごたえを感じている。今後は顧客管理システムの活用も検討していきたいとのことだ。

 支援機関紹介

天竜商工会 支所長 仙田昇氏

天竜商工会
天竜支所
支所長 仙田昇氏

鈴木洋服店への専門家派遣に際し、派遣機関となったのが天竜商工会である。仙田氏は、ブログを通じてネット活用を学び合う「ブログ村」の活動を知り、天竜地区での開催を後押しした。

「他地域から顧客を呼べる店があればあるほど地域は活性化します。補助制度を活用していただきながら支援を続けていきたい」と話す。

仙田氏は自身の趣味であるカラオケステージ用の衣装をオーダー。結婚式などでも使える生地を選んだ納得の一着である(写真はそのジャケットを着用中)。

サポーター紹介

サポーター

ITコーディネータ
ジョイプランツ
代表 和田喜充氏

静岡県西部・愛知県東部を中心にコンサルティング活動を展開。ネットやモバイルなど身近でありながら使い方次第で効果を高められるツールの活用支援を得意とする。

地域の人々がネットを通じた情報発信について学べる「ブログ村」活動を10年以上にわたり行っている。

鈴木洋服店の支援においては、店側が発信している情報とユーザーが価値を感じる情報とのズレを指摘し、同社の特色が伝わりやすいサイト作りをナビゲートした。

鈴木店長は「ブログ村でお互いの顔が見えていたので、スムーズに支援を受けられました。細かいところを変えるだけでも効果が出たのには驚きました」と笑顔で話す。

地道な地域活動が根をおろし、また1社、地域の企業を前進させた。(写真は鈴木洋服店でオーダーしたスーツを着用)