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賃貸物件の案内を顧客本位で行うには? ケータイを「鍵」にした「セルフ内覧」サービス

早川不動産外観写真

2014年 春号 2015.10.16


モバイル関連技術の進展は新しい営業手法や効率化など経営効果をもたらしているが、この技術を本業に取り込み、革新的なサービスを開発する企業もある。

福岡県福岡市に本社を構える早川不動産は、情報をやり取りできるICチップが携帯電話に搭載されたことを受けて、賃貸物件を探す顧客(以下入居者)、物件のオーナー、住宅あっせん会社それぞれの利便性が高まる「MILOKA」(ミロカ)サービスを提供している。

システム部長平川大智氏 代表取締役社長早川眞市氏

(左)システム部長 平川大智氏 (右)代表取締役社長 早川眞市氏

社名 株式会社 早川不動産
所在地 福岡県福岡市博多区吉塚本町2-44
従業員数 40名
事業内容 不動産管理業(賃貸住宅管理、関連サービス提供)
URL http://www.hayakawa-0001.co.jp/

候補物件の内覧は手間のかかる仕事

住まい探しにおいては、見たい物件があると住宅あっせん会社の社員が鍵を借り、一緒に現地に向かうのが一般的だ。しかし「MILOKA」では、携帯電話が「鍵」になる。

新しい鍵の仕組みを発想した早川眞市社長は、背景を次のように説明する。

「賃貸物件の供給が増えると空室を埋めるため住宅あっせん会社はオーナーに高い手数料を求めます。すると手数料の高い物件を優先的に紹介したくなり、入居者本位のサービスとは言えなくなってきます。業界の健全な発展には入居者が主体的に情報を収集して選べる仕組みが必要と思いました」

賃貸物件仲介をめぐる課題

入居者がたくさんの物件を見て比較検討する場合、ネックになるのは鍵の受け渡しだ。住宅あっせん会社もその都度鍵を受け取って同行していたら人件費がかかりすぎる。

そこで、「鍵」の在り方を変えようと考えたのである。

「MILOKA」ではICチップの情報で入居者が鍵を開閉する専用のドアノブを開発した。ICカード(チップ)とは

ICチップ付きの携帯電話を所有していれば利用はだれでもOK。まずWebサイトから内覧したい物件を探し内覧日時を決めて申し込む。受付が完了するとメールで鍵のダウンロードに関するお知らせが届き、入居者の携帯電話に鍵が登録される。

約束の日時に現地に行き、リーダーに携帯電話をかざすと鍵が開くという流れだ。鍵が有効なのは1時間。時間を過ぎると携帯電話をかざしても中に入れない(出ることはできる)。

鍵を受け取り同行する人員が不要になり、顧客は自分のペースでじっくり物件を検討できる。

成約すると鍵は契約者専用となり、携帯電話で玄関のドアを開け閉めできるようになる。

利用者の評価は上々 改修時のオートロック導入も

近隣の大学で学生に実証実験を行ったところ評価は良好で、MILOKAを使った賃貸住宅に入居を決めた学生もいたという。

同事業を担当するシステム部長の平川大智氏は、「物件探しもネットが主流になってきましたので、物件をチェックしてその場で鍵を手に入れられるようにしました。入居希望者が自分で探せば物件オーナーは手数料が抑えられますし、住宅あっせん会社は行き来する手間がなくなり、三者にメリットがあります」

ネットでは物件が検索条件に当てはまらないと検討の候補にすら上らない。例えば希望者が増えているオートロックは築年数が経っている物件にはついていないことが多く、オーナーは頭が痛いところだ。

早川不動産では、マンションの入口にICチップによる鍵の仕組みを取り入れることで、オートロックを手軽に導入することも提案している。

携帯を「鍵」に賃貸物件を自分で内覧「MILOKA」

「先日も賃貸住宅の改修をするオーナーがこの仕組みを利用されました。エントランスだけなら100万円程度と従来の2割の費用で済み、大変喜ばれました」と早川社長は話す。

退去者が出た場合には鍵の情報を新しく書き換えればよいので、物理的な鍵を取り換える必要がない。新しい入居者には安心感、オーナーにはコストメリットを提供している。

同社ではこのシステムを使った「無人ホテル」を企画し運営を行っているそうだ。

通信と鍵は生活の情報化を支える

ICチップは「おサイフケータイ」で採用されている「FeliCa」を使用。搭載されていない機種もあるのですべてのユーザーが対象にならない点は課題だが、入居者が恒常的に鍵として使う場合は専用のICカードの利用も可能だ。

早川不動産がシステムを考案したのはなんと10年も前。「早すぎたかもしれません」と笑う早川社長は、「家賃の支払い、入居者の健康・安全管理や生活利便性の向上といった様々な場面で情報化が進みます。そのとき媒介になるのは通信と鍵であることは間違いありません」と今後への決意を新たにする。

現在は中小企業基盤整備機構九州から専門家の派遣を受けて、管理業務にかかわるクラウドシステムの構築も進めているとのことだ。

進化するITを取り入れ革新的で魅力ある商品を創り出すチャンスはどの企業にもある。勝負は発想と実行力だ。

※「MILOKA」は平成22年の「異分野連携新事業分野開拓計画」の認定を受けた。